当該マンションは築35年を迎えるものの長期修繕計画を有しておらず、第2回大規模修繕工事の検討も視野に入れているが、予算が足りるのか不足するのか、その道筋が立たない状況とのことでした。管理組合は複数の設計事務所へ長期修繕計画策定の可否を打診したものの、いずれも「大規模修繕工事の実施が前提」とのこと。当事務所にはそのような前提はないため、長期修繕計画の策定のみでも対応可能である旨をお伝えしました。
■ 着手前の質疑応答第1回大規模修繕工事の実施時に修繕積立金の改定は行われていましたが、その金額が現状において妥当なものかどうかは改めて検証する必要があると推察されました。また、第2回大規模修繕工事を要するほど建物が傷んでいるか否かについても判断材料が乏しく、その収集のため、簡易ながら建物調査の実施を提言しました。
■ 取り組み
まずは建物の現状を正確に把握することを目的に、作図から着手し、正確な仕上数量を算出しました。これにより建物に関する基礎情報を整えたうえで、現地確認を目的とした簡易調査を実施。実際に館内へ入ると、想定以上の劣化が確認されました。この調査結果をもとに第2回大規模修繕工事の実施時期を検討し、防水面の劣化、外壁タイルの浮き、塗装の劣化などの状況から、できるだけ早期の実施が望ましいと判断しました。理想としては37期、資金面の事情を考慮した場合でも38期での実施を提案し、あわせて修繕積立金の改定案も提示しました。
■ 本案件の特徴
建物の立地環境から、都心部のマンションほどの劣化進行は見られないものの、相応の劣化は確認されました。給水設備が高置水槽方式であったため、受水槽からの直結加圧ポンプ方式への改善が現実的と判断し、更新工事として計上しました。また、排水管がライニング鋼管であることから更新が相当と判断し、これもあわせて計上しています。なお、エレベーター改修がすでに実施済みである点は、将来の資金計画上、安心材料となりました。
■ 後記
長期修繕計画の策定は、本来、大規模修繕工事の実施可否とは切り離して検討されるべきものです。しかし実務上は、計画策定の依頼そのものが工事受注を前提とした形でしか受けられないケースも少なくなく、結果として管理組合が計画の全体像を把握しないまま工事の要否だけを迫られる事実が往々にしてあります。まずは建物の現況を正確に把握し、計画と資金の見通しを立てたうえで、必要な工事の時期と規模を判断する——この順序を守ることが、管理組合にとって不要な不安や過剰投資を避けるうえで重要であると考えます。
本件は、過去に当事務所で長期修繕計画の策定を行った物件であり、その後も適宜の見直し・更新を行ってきました。修繕積立金の改定は実施したものの、承認から実施まで1年以上を要したことや、計画修繕に計上しない工事が先行したことなどが重なり、肝心の大規模修繕工事は計画通りに進みませんでした。結果として建物は部分補修が続き、竣工から30年が経過するなかで、特にベランダ側の劣化が顕著となっていました。これを受けて、5年前に策定した長期修繕計画を改めて改定することとなりました。
■ 取り組み
本物件は2棟218戸の大型マンションであり、全住戸を対象に一斉に大規模修繕工事を実施することは、資金面はもとより、工事期間中の居住環境への影響を考えた場合にも現実的ではありませんでした。借り入れによる資金調達も難しい状況を踏まえ、検討を重ねた結果、2棟の建物を4面に分割し、毎年1面ずつ工事を実施していく計画を立案しました。これにより、資金負担と工事期間中の生活への影響をともに分散させることができます。大規模修繕工事以外の工事についても、同様に実施時期を分散させることを念頭に置きながら、長期修繕計画全体を組み立てました。
■ 本案件の特徴
マンションは実質2棟から成りますが、確認申請上は1棟として扱われています。比較的大型のマンションであり、本来であれば修繕積立金は貯まりやすい条件にあります。駐車場は平置き100%であるため管理費に余剰金が生じやすく、そこから修繕積立金への繰入も可能な状況です。さらに敷地内にはコインパーキングも併設されており、そこからの収入も見込まれます。こうした好条件が揃っているにもかかわらず、建物の維持保全は遅れがちであり、劣化した部分のみを場当たり的に補修してきたのが実態でした。修繕積立金の改定がもう少し早く実現できていれば、という点が悔やまれる案件です。
■ 後記
本事案に限らず、長期修繕計画が形骸化する背景には、制度や資金計画そのものよりも、管理組合員の当事者意識の希薄化が根本的な要因として存在することが少なくありません。役員の一存に運営が偏りがちな体制や、管理会社への過度な依存が重なると、計画と実態の乖離はさらに進行します。こうした事態を防ぐには、修繕積立金や工事内容についての情報を組合員間で継続的に共有し、当事者意識を維持していく仕組みづくりが求められます。